君の指まで

無名オタク

推しの顔見れない

5月に推しのワンマンがあった。ライブハウスの中に50人いなかったと思う。すごく平和で、緩くて、いい意味でぬるいあのライブが大好きだった。

 

今でも2年前のワンマンライブのことをはっきり覚えてる。1番前の端っこに座っていたわたしに向かって「見えてる?大丈夫?」って聞いてくれたことも、手紙しかあげられなかったのに、見たことない笑顔で「ありがとう」と言ってくれたことも、わたしが聞きたかった曲を(偶然)歌ってくれたことも、ちゃんと思い出せる。

いつも現場が終わると悲しい気持ちでいっぱいになって、嬉しかったことすら忘れてしまうのに、そのワンマンだけはずっと綺麗な形のままわたしの頭の中にあった。今まで行ったどの現場より幸せだった。いまでも幸せだったな〜ってたまに思い出す。

そのワンマンがわたしにとってはじめての(その推しの)現場だった。そもそも、推しはその界隈では結構というかかなり古参な方で、失礼だけど人気のピークはもうとっくに過ぎ去ってた。わたしはピークが終わってから推しを好きになった。私と同じくらいの新規のオタクなんて、きっと両手あれば足りるくらいしかいないと思う。(応援してる人は10年以上前からしてるんじゃないかな)

やっぱりライブハウスは古参ばっかりで、みんなだいたい知り合いで仲良い、みたいな感じだった。その推しのオタクの友達はひとりもいないので、ずっと静かにすわってた。それでも推しが歌う姿を見るだけで楽しかった、幸せだった、と思えた。

「お見送りしまーす」っていいながらライブハウスのドアの前に立って、オタクひとりひとりと話してくれた。「だいすき」と手でハートを作りながら伝えたら、慣れない手つきでハートをつくって「ありがとう、またきてね!」と笑ってくれた。

 

推しの歌声が大好きだし、顔も好き。その日からわたしの中で「特別」になった。世界一好きだとも言った。実際、世界で1番わたしにはキラキラして見えた。

だから今年の5月もライブに行こうと思ってチケットを取った(その間にもライブあったけど)。

わたしが好きな曲ばかり歌ってくれた(これは本当にただの偶然)。とっても楽しかった。

今回もお見送りしてくれた。物販に使われていたテーブルの向こう側で推しがオタクと楽しそうに喋っていた。

 

何喋ろうかなとワクワクしながらの並んでたけど、いざ自分の番になってみると何を言ったらいいの分からなくなった。この曲がよかった、あの曲もすきなんですよね、とかそういう感想しか言えなかった。ほかのオタクは1分ぐらいずっと話してハグしてたけど、わたしはもう苦しくなってありがとうと言いながら握手だけして帰った。

 

今1番応援しているアイドルの女の子は、こちらが話しかけなくてもどんどん話題を提供してくれるからリラックスできる。

わたしは人見知りだし、人と話すことがあんまり得意ではない。それは学校の知らない人とかだけじゃなくて推しに対してもそうで、いつも会話を繋げる話題をつくることが出来ずに終わる。べつにそれまでは提供できなくてサラッと終わっても全然平気だったのに、なぜかそのワンマンの日だけはむちゃくちゃ病んだ。

もうその日上がった自撮りすら見られなかった。「差し入れを開けながら生配信する」と言っていたけど、見る気にもなれなかった。

 

こんなにオタクやめたいと思ったことは初めてだった。なんだかんだ言ってどの現場も楽しかった、だけどこの現場だけはいろいろ辛かった。もう次のワンマンが決まっているけど、チケットを取れずにいる。次会ったとき、どんな顔してどんな話をすればいいのか全く分からない。向こうはわたしのこと多分覚えてないけど、Twitterにリプ送ることすら怖い。あの日から配信もしばらく見てない。

 

それでも歌は好きだし、会いに行きたいって思いもある。

2年前より幸せなライブになればいいな